zarazara

2026.03.16

生活を、取り戻す。― 地域とつながる理由-

家の中には、その人の「人生」があります。

生まれてから住んでいる家や仕事を頑張って自分の代で建てた家、息子さんの家に呼んでもらって住んでいるという方もいます。

昔使っていた趣味部屋が2階にあるからもう行けない。生活動線を制限されて、行ってはいけない場所がある。自分の家なのに?

昔飼っていた犬の写真や東京に住んでる孫の写真。花壇に並ぶ雑草「本当は毎日草むしりしたいのに」

私は訪問リハビリの理学療法士として、毎日誰かの「生活の現場」に立ち入らせてもらっています。病院の廊下ではなく、畳の上で。広くて安全なリハビリ室ではなく、椅子やテーブルで仕切られた普通の住宅で仕事をします。

ここで働いていると、いつも考えることがあります。

「リハビリは、いったいどこで完成するのか?」―卒業は誰が決めるのか―



病院の中では、見えないものがある

病院で働いている療法士であれば、必ずと言っていいほど抱く疑問があります。

自宅に帰ってからの生活は、どんなものなのか?

訪問リハビリをすると、分かることがありました。

「見守りが必要です」と言われた人が、2ヶ月で全介助になっている。

「日常生活は概ね自立です」と言われた人が、転倒を繰り返している。

「家事もできる」と言われた人が、肩を痛めて着替えも出来なくなっている。

私たちのところに相談が来るのは、たいてい介助量が増えた後です。



「通えなくなった人のリハビリ」という誤解

「通えないからお願いします」と言われることが、今もあります。 正直に言います。それは、「間違ってはいません。でも、それだけじゃない。」

制度的には、「通院・通所が困難な者」を対象としつつ、一方で、「退院後早期の生活再建を推奨する」ともされています。生活再建において現場となるのは、まず自宅ですよね。

その点において、訪問リハビリは、「生活を取り戻すためのリハビリ」だと捉えることもできます。まさに、生活再建と自立支援を達成するための手段です。

その人が、どんな家で、誰と暮らし、何を楽しみに生きているのか。そこまで含めて初めて、生活期のリハビリが始まります。だからこそ、当院の訪問リハビリでは、初回の介入が生活状況の聞き取り・確認と建物探訪で60分を使います。

体の機能向上は、目標達成のための「手段」に過ぎない、と考えています。

だから私は、ただ関節が動くようになっただけでは、何も成果を出していないのと同じだと考えます。

手技一つで、「肩が動くようになった」と涙ぐむ方がいます。

でも——それだけでは、生活は戻らないと知っています。



一人の専門職には、届かない場所がある

個人がどれだけスキルを磨いても、その方が社会から孤立していれば、生活は成り立たちません。私が帰ったあとの時間のほうが圧倒的に長く、週に1〜2回のリハビリの間に、その方の生活は続いています。

ケアマネジャーさんが知っている「その方の生活史」が、リハビリ計画を変えることがあります。介護職の方が気づいた「小さな変化」が、私が見落としていたサインであることもあります。地域の民生委員さんが知っている「公民館のイベントの話」が、その人の外出意欲を引き出すきっかけになることだってあります。

よく、「地域リハビリテーション」というと、地域の療法士同士が情報交換する光景が多いですが、専門職の壁を越えた場所に、その人の生活があるということに気付かなければなりません。



だから私たちは、地域とつながる

「ミロクリハビリセミナー」には、そういう理由が含まれています。

当事者、ご家族、ケアマネジャー、介護職、民生委員、療法士——立場の違う人が一つの場に集まり、療法士目線での生活支援を発信する。難しい知識を詰め込む講義ではなく、顔を合わせて、「現場で困っていること」を持ち寄る場にしたいと思っています。

R7年1月からスタートし、先日4回目の開催を終えることができました。

私たちリハビリ専門職が「当たり前」だと思っていることが、地域の方には届いていないこともたくさんあります。逆に、介護の現場でしか見えていない姿を、私たちは知らないこともたくさんあります。

殆どマンツーマンの関りだからこそ、視点が固定してしまうと感じることがあります。広く情報を発信するということは、自分自身が広い視野・多くの視点・等身大の視座を得るための研修の機会ともなるので、もし、私たちに生活を見る視点が欠けていると感じた方は、ご指導・ご助言を遠慮なく言っていただければと思います。



これからのリハビリが問うこと

身体機能を回復させることは、医療的リハビリ専門職の大切な柱であることは間違いありません。でも、それだけでは「その方らしい生活」は戻りません。

その方が何を取り戻したいのか。地域の中でどんな役割を持って生きていきたいのか。そこまで一緒に考えることが大事だと、20年くらい前から言われていますが、これからの時代は、それを地域全体で考えるフェーズに入らなければなりません。

生活は、医療だけでは支えられない。 でも、地域だけでも支えられない。だから、全ての壁を越えて「まるごと、我がごと」が社会テーマとなっています。興味を持たれた方は、「2040年問題,地域共生社会」で検索してみてください。

ミロクリハビリセミナーは、まだ始まったばかりで完成形はありません。毎回、問題が発生して、上手にできたことは1度もありません。でも、続けるたびに、地域の中に「顔の見える関係」が少しずつ生まれていることは確かです。

お金を取れるような出来栄えを目指しているわけではありませんが、積み重なった先に、脳卒中をあきらめなくてよい地域社会ができてくると、私は信じています。それが、私たちが地域とつながる理由です。

天童市を中心に近隣の東根市・山形市などの方のご利用もお待ちしております。