zarazara

2026.11.01

片頭痛治療。経口薬のCGRP製剤について

さていよいよ11月です。

これまでのブログでも、片頭痛のメカニズムや、片頭痛を引き起こす原因物質であるCGRPを抑える注射薬(エムガルティ・アジョビ・アイモビーグ)について何度かご紹介してきました。おかげさまで、注射のお薬を始めてから、頭痛で寝込む日が劇的に減った、天気が悪くても普通に仕事に行けるようになった、といった嬉しいお声を日々の診察のなかでたくさんいただいています。


ただ、その一方で、診察室ではこのようなご相談を受けることも少なくありません。

「先生、あの新しいお薬がすごく効くというのはブログを読んでよく分かったんです。でも……どうしても注射が怖くて一歩が踏み出せなくて」 「毎月注射を打ちに通うのが、仕事や子育ての都合でなかなか難しいんです」 「もし体に合わなかったとき、注射だと1ヶ月お薬が体に残ってしまうのがちょっと不安で……」

お気持ち、とてもよく分かります。どんなに良いお薬だと頭では分かっていても、毎月注射針を刺すというのはやっぱり勇気がいりますよね。

そんな、注射がどうしても苦手な方や、もっと手軽に本格的な片頭痛ケアを始めたい方に、とても嬉しいニュースがあります。2025年の冬から2026年の春にかけて、注射と同じCGRPを狙い撃ちするタイプのお薬に、待望の飲み薬(内服薬)が2種類登場したのです。

それが、ナルティーク®とアクイプタ®という2つのお薬です。

今回は、これまでのブログのおさらいは最小限にしつつ、この2つの新しい飲み薬はいったい何が違うのか、自分にはどちらが合っているのかという疑問に、診察室でお話しするような気持ちでお答えしていきたいと思います。


おさらい。

以前のブログでもお話しした通り、片頭痛のズキズキとした激しい痛みや吐き気は、脳の血管のまわりにある三叉神経からCGRPという痛みの原因物質が大量に放出されることで起こります。

これまで、このCGRPをピンポイントでブロックするお薬は注射薬しかありませんでした。なぜなら、注射薬の成分(抗体)は分子のサイズがとても大きいため、もし飲み薬にしてしまうと、胃の中で消化・分解されてしまって効かなくなるからです。

そこで世界中の研究者が知恵を絞り、胃で溶かされずにちゃんと吸収されて、しかもCGRPがくっつく受容体(鍵穴)に先回りしてピタッとフタをしてくれる小さな分子の飲み薬(ゲパント系薬剤)を開発しました。

従来の飲み薬(血圧の薬やてんかんの薬などを応用したもの)ではなかなか頭痛が減らなかったけれど、注射には抵抗があったという方にとって、まさに待ち望んでいた新しい選択肢と言えます。

では、日本に新しく登場した2つの飲み薬について、それぞれの個性を見ていきましょう。


1・予防も頓服もこれ1つ!二刀流のナルティーク®

まず2025年12月に登場したのが、ナルティーク®(一般名:リメゲパント)というお薬です。

このお薬のいちばん面白いところは、なんといっても予防薬としても、痛くなったときの痛み止め(頓服薬)としても使える二刀流のお薬だということです。

これまで片頭痛のお薬といえば、毎日飲んで頭痛を減らす予防薬と、痛くなった瞬間に飲むトリプタンなどの痛み止めにハッキリと分かれていました。ところがナルティークは、1種類のお薬でその両方の役割をこなすことができます。

●どんな風に飲むの?(2日に1回のペース) 予防として使う場合は、2日に1回(1日おき)に1錠(75mg)を飲みます。毎日薬を飲むのは少し負担だなと感じる方には嬉しいペースですね。また、普段は予防薬として飲んでいない方が、片頭痛が来そうだな、あるいは痛くなってきたなというタイミングで頓服として1錠飲むという使い方もできます(※1日に飲めるのは最大1錠までです)。

●水なしでサッと溶けるOD錠 お口に入れるとラムネのように唾液ですぐに溶けるタイプ(口腔内崩壊錠)で、ほんのりミントのような風味がついています。お仕事中や運転の合間、お出かけ先で手元に水がないときでも、サッと飲めるのがとても便利です。

●トリプタンが苦手な方の強い味方 片頭痛の特効薬であるトリプタンを飲むと、胸や首がギュッと締め付けられるような苦しさが出たり、強い眠気やだるさが出たりして飲めないという方がいらっしゃいます。ナルティークは血管を無理に縮めるお薬ではないため、そうした不快な症状が出にくく、また痛み止めを飲みすぎて逆に頭痛が増える薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)を起こしにくいという大きな強みがあります。


2・毎日1回でしっかり守る!予防に特化したアクイプタ®

続いて2026年4月に登場した2つ目のお薬が、アクイプタ®(一般名:アトゲパント)です。

ナルティークが2日に1回の服用と頓服もこなせる器用なタイプだとすると、こちらのアクイプタは毎日の片頭痛予防にとことん特化したスペシャリストという位置づけのお薬です。


●どんな風に飲むの?(毎日1回のシンプル習慣) アクイプタは頓服としては使いません。1日1回、毎日1錠(通常60mg)をコツコツ飲むことで、片頭痛が起きにくい状態をキープします。 2日に1回の方が楽そうに見えるけれど、実際にやってみると昨日飲んだかどうか分からなくなってしまう、という方は意外と多いものです。朝起きたら飲む、夜寝る前に飲むというように、毎日のルーティンに組み込みやすいのはアクイプタならではの良さです。

●効き始めるのが早く、長引く頭痛にも対応 従来の予防薬は、飲み始めてから効果が出るまでに1〜2ヶ月ほど待つ必要がありました。しかしアクイプタは、飲み始めた最初の1週目から頭痛が減ってきたと効果を実感しやすいのが特徴です。また、月に数回〜十数回の片頭痛がある方だけでなく、月の半分(15日)以上も頭痛に悩まされている慢性片頭痛の方に対しても、しっかりとした予防効果が確認されています。

●体質に合わせて3段階で量を調整できる アクイプタには10mg、30mg、60mgという3つのサイズの錠剤があります。普段飲んでいる他のお薬との飲み合わせや、腎臓の働き、あるいはまずは少ない量から様子を見たいといったご希望に合わせて、きめ細かく量を調整できる安心感があります。


結局、私にはどっちが合っているの?

診察室でどちらが良いかご質問をいただいたとき、私は患者さんの生活スタイルや普段のお困りごとに合わせて、こんな風に整理してお話ししています。

※実は、1ヶ月間しっかり予防として飲んだ場合の窓口負担額(3割負担)は、ナルティーク(月15錠)もアクイプタ60mg(月30錠)も月額約13,000円前後で、ほとんど同じになるように設定されています(注射薬と比べてもほぼ同じくらいの費用感です)。

ナルティークがおすすめなタイプ

●今使っている痛み止め(トリプタンなど)が効きにくい、または副作用で飲むのがつらい方

●予防しつつ、いざという時のお守り(頓服)としても同じお薬を持ち歩きたい方

●水なしで飲めるお薬の方が続けやすい方

●とりあえず頓服から試したい方

アクイプタがおすすめなタイプ

●1日おきだと飲み忘れてしまいそうなので、毎日決まった時間に1錠飲む習慣にしたい方

●今ある痛み止めはちゃんと効くので、とにかく頭痛が起きる日数そのものを毎日しっかり減らしたい方

●月の半分以上頭痛があるような、長引く片頭痛にお悩みの方


注射のお薬と比べたときの飲み薬のメリットは?

すでにブログでご紹介している注射薬と比べたとき、今回ご紹介した2つの飲み薬には、注射が不要なこと以外にも大きなメリットがあります。

それは、いつでも自分の意思ですぐにやめられる(体からすぐ抜ける)ということです。 注射のお薬は一度打つと1ヶ月間効果が続くのがメリットですが、裏を返せば、体から抜けるのにも時間がかかります。その点、ナルティークやアクイプタは、飲むのをやめれば数日で体から成分が抜けていきます。まずは少し試してみて、合わなければすぐにやめたいという方や、近い将来、妊娠を考えているのでタイミングを見てすぐにお薬をストップできるようにしておきたいという女性の方には、飲み薬のほうが圧倒的に使いやすいのです。


始める前に知っておいていただきたい注意点

とても心強いお薬ですが、副作用の懸念があります。

それは、お腹が少し張ったり、便秘になったりすることがあります CGRPという物質は、実は腸を動かす働きもしています。そのため、CGRPをブロックすると腸の動きが少しゆっくりになり、数%の方で便秘や軽い吐き気が出ることがあります(アクイプタではまれに眠気が出ることもあります)。もし便秘が気になるときは、お腹に優しい整腸剤や下剤を一緒に処方できますので、遠慮なく教えてくださいね。


またこれらの薬剤はまだ新しいためこれまで最大2週間分という処方制限がありましたが

まもなくナルティークが。その後アクイプタが制限解除になる見込みであり、頻回な通院が大変な患者様にとっても使いやすい薬になってくると思います。


あなたの暮らしに寄り添う治療を一緒に見つけましょう

たかが頭痛くらいで病院に行くなんて、と我慢して、市販の鎮痛薬を飲み続けながら仕事や家事、育児を頑張っている方が本当にたくさんいらっしゃいます。

でも、片頭痛の治療はここ数年で驚くほど進化しました。 これまでの飲み薬、月に1回の注射薬、そして今回ご紹介したナルティークとアクイプタという新しい2つの飲み薬。選択肢がぐっと広がったことで、注射は怖いけれどこれなら試してみたい、自分の生活リズムにはこれが合いそうと、お一人おひとりの暮らし方に合わせたオーダーメイドの治療ができるようになっています。

自分の場合はどのお薬が一番合っているのだろう、まずは話だけでも聞いてみたい、という方も大歓迎です。頭痛に振り回されない、スッキリとした毎日を取り戻すために、ぜひお気軽に当頭外来へご相談くださいね。



出典・参考文献

この記事は、以下の公的機関の公開情報、診療ガイドライン、および医学論文をもとにお話ししています。

  1. 日本頭痛学会・日本神経学会・日本神経治療学会 監修 頭痛の診療ガイドライン 2021(医学書院, 2021年)および CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン追補版
  2. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)医療用医薬品情報検索
    • ナルティークOD錠75mg(リメゲパント硫酸塩水和物)電子添文(製造販売元:ファイザー株式会社、2025年9月承認・2025年12月発売)
    • アクイプタ錠10mg/30mg/60mg(アトゲパント水和物)電子添文(製造販売元:アッヴィ合同会社、2026年2月承認・2026年4月発売)
  3. リメゲパント(ナルティーク)に関する主要臨床試験論文
    • Croop R, et al. Oral rimegepant for preventive treatment of migraine: a phase 2/3, randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet. 2021;397(10268):51-60.
    • Lipton RB, et al. Rimegepant, an Oral Calcitonin Gene-Related Peptide Receptor Antagonist, for Migraine. N Engl J Med. 2019;381(2):142-149.
  4. アトゲパント(アクイプタ)に関する主要臨床試験論文
    • Ailani J, et al. Atogepant for the Preventive Treatment of Migraine (ADVANCE trial). N Engl J Med. 2021;385(8):695-706.
    • Pozo-Rosich P, et al. Atogepant for the preventive treatment of chronic migraine (PROGRESS): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet. 2023;402(10404):775-785.
    • Sakai F, et al. Efficacy and safety of atogepant in Japanese patients with episodic migraine (RELEASE trial). 国内第3相臨床試験報告.
  5. 米国頭痛学会(American Headache Society)コンセンサス声明
    • Charles AC, et al. Calcitonin gene-related peptide-targeting therapies are a first-line option for the prevention of migraine: An American Headache Society position statement update. Headache. 2024;64(4):333-341.