zarazara

2025.05.31

根拠に基づく医療とは ―あなたの“らしさ”を守るリハビリの羅針盤―

前回のわたし(作業療法士Tです)の記事では「エビデンス=科学的根拠ってなんだろう?」をテーマに、脳卒中治療ガイドラインや痙縮治療の推奨度を例にお話ししました。そこでは「万能なリハビリは存在しない」「患者さん一人ひとりに合わせた選択が重要」という結論にたどり着きましたね。

今回はその続編として、Evidence-Based Medicine(EBM)=根拠に基づく医療の考え方を掘り下げ、「だから私たち作業療法士はどのようにリハビリをデザインしているのか?」を紐解いていきます。

 

 医療従事者の方々は、EBMという言葉の方が、聞いたことがあるかもしれません。EBM(Evidence-based medicine: EBM)は『根拠に基づく医療』と訳され、科学的根拠と臨床経験、患者の価値観を統合して最善の医療判断を行う考え方です。


1    EBMを支える“4つの構成要素”(図1)

EBM(Evidence-Based Medicine)は「根拠に基づく医療」と訳され、次の4つの構成要素によって成り立っています。

●科学的根拠(Research Evidence):信頼性の高い研究や論文に基づく情報


●臨床経験(Clinical expertise):医療者の技術・経験・専門性


●患者の価値観・行動(Patient’s preferences & Action):生活背景や意向を尊重


●臨床現場の状況や環境(Clinical state & Circumastances):現場の資源や地域性など


図1:EBMを支える“4つの構成要素”



エビデンスはもちろん重要ですが、それだけで判断する物ではなく、多くの観点からこれらの要素を統合して意思決定を行い、現時点での最善の医療を提供しようという考えになります。


いくら質の高い論文で治療効果が示されていても、患者さんが「痛みが減るより家事が少しでも自立したい」と望むのなら、私たちはその声を一番太い柱として扱います。

つまり、


「エビデンスは地図、でもハンドルを握るのは患者さん自身」

―それがミロク脳神経リハビリクリニックのスタンスです―

 


2 EBM の 5 ステップをリハビリで再現すると

EBM には「①疑問を具体化する」「②資料を検索する」「③批判的吟味する」「④患者に適用する」「⑤振り返る」という 5 つのステップがあります。作業療法の現場に落とし込むと、例えば次のように動きます。

ステッ

こうしたサイクルを患者さんと一緒に回せるかどうかが、リハビリ成功の鍵になります。



3 ガイドラインと現実の“ズレ”を埋める

ガイドラインは強力な羅針盤ですが、現場ではよく「推奨度 A なのに実践できない」壁にぶつかります。

理由は大きく3つ。


①時間・環境制約:外来 60 分×週 5 回で訓練を継続するのは難しい。


②患者さんの合併症:痛みや高血圧があり高強度訓練ができない。


③文化的背景:日本の生活様式では海外論文のタスクがそぐわない。


私たちはこの“ズレ”を埋めるために、「国内研究」「生活期の症例報告」など、ガイドラインより一歩手前のエビデンスまで網を広げます。そして「研究では週5回だけど当院では週1回+自主訓練動用のパンフレットを用いてで補完」という“解釈”を行います。



4 まとめ――“地図”を活かすのはあなたと私たち(エビデンスは地図、舵を取るのは患者さん自身)


EBM は「科学」+「技術」+「物語」

EBM は単なる論文読解術ではなく、「科学(Evidence)」「技術(Expertise)」「物語(Patient Values)」の三位一体で進む“旅”です。

脳卒中後のリハビリは“再スタートの地図”づくり。作業療法士は科学と経験、そして対話を武器に、患者さんの「その人らしい暮らし」へ伴走します。

あなた自身の価値観を大切にするリハビリに、一緒に取り組んでみませんか?