2023.02.01
地域で目指すニューロリハビリテーション
リハビリテーションについては前回の記事で述べました。
では、ニューロリハビリテーションという言葉について考えてみます。
一気に聞きなじみがなくなるかもしれませんが、私たちが最も力を入れている分野でもあります。
「ニューロ(neuro)」=神経という意味です。
簡単に言うと神経に関する症状に対してリハビリをしますよ。ということになります。
神経に関する症状?
- 脳卒中後遺症で手足が動きにくい・使いにくい(運動麻痺)
- 手足が固まってきた(痙縮)
- 手足がしびれる・痛い(感覚障害)
- 言葉がうまく話せない(失語)
- 頭部外傷
- 認知症
- パーキンソン病・脳性麻痺などの難病
- 脊髄疾患
- 一部の頭痛・めまい など
ざっと羅列しただけでも、結構身近な症状や病気が当てはまってるのがわかります。
中でも主となるのが脳梗塞に代表される「脳卒中」かと思います。
脳卒中の怖いところは、一瞬にして患者さん自身だけでなく、周りのご家族・職場などの社会環境が一変しうる可能性があるということです。
昨日まであんなに元気だったのに手足が動かない、ベットから起きられない、脳梗塞は治っても歩けるようにはならないと先生には言われた。
ご家族には患者さんを支えていくための介護負担が出てきます。
元通りの仕事に戻れない可能性もあります。
→そんな病気です。
病気になった直後からの急性期治療が著しく発展し、多くの脳卒中患者さんの命が救われる時代になりました。 だからこそ、病気が治った後、
「後遺症」の部分が顕在化してきたという背景もあります。
「脳梗塞は治ったと言われたけど、全然手が動かない。何が治ったのかわからない」
こんな声をこれまで数えきれないほど聞いてきました。
そのたびに悔しい思いをしてきました。
自分にできることはなんだろう。
その中でニューロリハビリという分野に出会いました。
その定義は確立されたものはなく、これまで多くの先生が様々述べてくださっておりますが、WHOでは
神経学的な障害や機能の喪失を経験した人が知識、技能、そして適切な身体、心理、社会機能に必要とする支援を獲得する問題解決過程
としています。
要するに前回の記事で触れた「リハビリテーションの定義」の神経バージョンですね。
すごく当たり前の事のように思うのですが、なぜ最近まで
ニューロリハビリという概念が浸透しなかったのでしょうか?
それは
「一度壊れてしまった脳細胞は元には戻らない」
という考えが強かったからだと思います。
脳はとても複雑な神経回路で構成されています。
神経回路を構成する脳細胞は1000億個近くあると推測もされています。
そしてそのそれぞれに役割が与えられています。
なので同じ脳出血でも出血した場所、大きさ、出血の形などで
出てくる症状は全く違います。
それだけ脳はデリケートで複雑に構成されています。
そんな複雑に機能している脳細胞の一部が壊れてしまったら、、
例えば右手を動かす担当の細胞が壊れてしまったら、
その機能は失われて二度と戻らない。
だから右手が動くようにはならない。
「後遺症だから仕方ないですね。」という言葉に繋がっていきます。
じゃあ今は元に戻るんですか?
.......
残念ながら戻りません。
ですが、失われた細胞の働きを補おうと、周りの元気な細胞たちが頑張る機能が脳にはあることが近年わかりました。
会社で突然の欠勤者が出たら、その人の分まで他の社員が協力して乗り越えようとするのと同じです。
それを脳の可塑性(かそせい)と言います。
この可塑性が周知され始めたことで、ニューロリハビリという分野の可能性は大きく広がりました。
例えば、
欠勤者の分まで頑張ろうと努力はしても、部署が異なれば、勝手が違う事が多いと思います。
可塑性も同じように、周りの細胞が頑張るけど、本来そこにあったはずの細胞と同じ働きはなかなかできません。
そして本来に自分の働きを見失ってしまう事もあります。
その可塑性を少しでも正しい方向に導いてあげることが、ニューロリハビリの意義です。
動かないのは手だけど、その原因は直接触る事のできない脳(神経)にある。
その脳の可塑性を最大限高めるために、様々な手技やデバイスと呼ばれる機械などを用いて治療を行います。
大きな病院でないと導入できないようなデバイスが求められることもあります。
もちろんクリニックで、そんな設備を導入するのはなかなか難しいです。
では、私たちが地域の中で目指すべきはどんなリハビリなのか。
それは
「ニューロリハビリテーションを積極的に応用し残存機能を最大限高めたうえで、それを維持・向上していけるような生活環境を地域社会の中で共に作っていくこと」と考えています。
その患者さんが失ってしまった機能(手足の動きなど)を可塑性を利用して最大限まで高める。
ですが、ただ手が動くだけではあまり意味がありません。
その動くようになった手の機能を日常生活の中でうまく使っていけるように周囲の環境整備を地域社会の中で
後押ししてあげる。
それが私たちミロクの目標です。
もちろん私たちだけでは何もできません。周囲の病院や介護施設、福祉施設などの連携が欠かせません。
脳卒中をあきらめなくていい社会を作る。
そのために自分たちができることを1つずつ積み上げていければと思っています。