zarazara

2025.09.12

もう一度、温泉へ──脳卒中後の“行きたい”を叶える『ミロク温泉リハビリ』の取り組み

「温泉に行きたいけれど、病気してからは行けてないなぁ」

これは、当院でのリハビリ中、ふとした会話の中で聞こえた一言でした。脳卒中を経験し、片麻痺という後遺症を抱えた方の多くが、日常の外出すら制限されがちな中、温泉という“特別な場所”は遠い存在になりがちです。

しかし、「もう一度、温泉に入りたい」という思いは、決して失われてはいません。そんな声に応えるべく始まったのが、『ミロク温泉リハビリ』という取り組みです。

アンケートから見えた「温泉に行きたい」という本音

この取り組みのきっかけは、既往に脳卒中がある当院利用者36名を対象に行ったアンケート調査です。

「今、温泉に行きたいですか?」という問いに対して、「できれば行きたい」「とても行きたい」と回答した方は合計27名(全体の75%)にものぼりました(下図1参照)


ミロク温泉リハビリとは?

『温泉リハビリ』と聞くと、温泉の中で運動をするようなイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、私たちが行っているのは「温泉に行きたいけど不安があって行けない人をサポートする」ことに特化した支援です。

たとえば

●浴槽までの移動

●更衣室での着替え

●浴槽への出入り動作の確認

●万が一の転倒リスクへの対応

といった温泉施設内の動作評価が中心です。

 実際、アンケートでも多く挙がった不安要素は「浴槽の出入り(25名)」「転倒(27名)」

「更衣動作(10名)」などでした(下図2参照)。これらを私たち理学療法士が事前に評価し、現地で支援することによって、「もう一度行けるかもしれない」という希望を現実に変えていきます。

第一歩:実際に温泉へ行ってみた

そして先日、いよいよ第一号の利用者さまと一緒に、温泉リハビリを実施しました。ご本人は60代の男性。

脳卒中後、片麻痺が残り、発症してからは温泉には行けていませんでした

(本人の許可を得て掲載しています)

  


今回ご協力いただいたのは、山形県天童市にある「はな駒荘」さんです。( https://www.yama-kan.com/onsen/tendo/)バリアフリーに配慮された設備や、職員の皆さまの温かいサポートのおかげで、安全かつ安心して実施することができました。

当日は理学療法士1名で同行し、大浴場の脱衣所から浴槽への移動、更衣、浴槽の出入り動作などをサポートしました。

終了後のご本人の言葉は「行く前は床面が滑りやすかったり、浴槽への出入りに対してとても不安でした。実際に行ってみると“温泉はやっぱりいいな“と思いました。また、付き

添ってもらえている安心感から、どうやったら温泉内で過ごせるかもわかり非常に助かりました。」というものでした。


この体験は、私たちスタッフにとっても大きな手応えとなりました。今後の温泉リハビリの展開に向けて、重要な一歩となったと感じています。

 

これからの課題とサポート

アンケートで明らかになった通り、温泉に行くにはいくつもの障壁があります。

不安要素としては「浴槽の出入り」「転倒」「更衣」が上位に挙げられました。

一方、必要とされているサポートは、

●手すりやスロープ(29名)

●更衣室でのサポート(9名)

●温泉施設の情報提供(20名)

●介助者の付き添い(14名)

などが挙がっています。(下図3参照)

これらを当院だけではなく、地域や他の施設と連携しながら解決していくことで、より多くの方に温泉体験を提供できると考えています。


おわりに──温泉は、リハビリの一部になる

温泉リハビリは、単なる娯楽やレクリエーションではありません。それは「やりたいことをあきらめない」という、生き方そのものを支えるリハビリです。

脳卒中の後遺症を持っても、工夫と支援があれば、行ける場所・できることは確実に増えていきます。

私たちミロクリハビリスタッフは、今後も利用者さまの「行きたい」「やりたい」という思いに寄り添い、一緒に一歩を踏み出すお手伝いをしていきたいと考えています。


※ご協力いただいたはな駒荘さんには改めて感謝申し上げます。

また、温泉リハビリはスタッフが外部まで同伴し院外での訓練になりますため自費リハビリとなります。

料金は1000円+入湯料250円(65歳以上または障害者手帳お持ちの方)です。

当日は医師の診察は行いますが他のリハビリプログラムとの並行はできませんのでご了承ください。


ご不明点はお気軽にスタッフまで!