2025.08.17
話すという事
我々はコミュニケーション手段として言葉を使用します。 日本であれば日本語、イギリスは英語、ブラジルはポルトガル語というように公用語が定められ ており、その言語を用いて他者とコミュニケーションを取っています。
言語聴覚士のリハビリはそんな言葉を話すという事に関するリハビリが2種類あります。
そもそも言語聴覚士のリハビリは『言語』と『聴覚』に別れます。それぞれが別の専門分野へと進 みます。
『言語』の分野も「成人」と「小児」に更に別れてそれぞれが専門分野へと進んでいきま す。
「成人」分野は主に病院や介護施設での勤務が主体になります。病後の機能回復が主な役 割になります。
「小児」分野は先天性の疾患への対応が主な役割となります。
当院では主に「成人」分野へのリハビリテーションが主な業務です。
その中で言語聴覚士の役割は「高次脳機能障害」、「失語症」、「構音障害」、「嚥下障害」の4つ に分けられます。
このうち「高次脳機能障害」と「失語症」は脳の神経が受けたダメージで脳機能 が制限されている状態を指します。
「構音障害」と「嚥下障害」は麻痺などによる筋肉の運動障害 が原因となり、口や舌が十分に動かせないこから起こる状態を指します。
「うまく話せない」という相談が我々に寄せられます。
この、うまく話せない状態を見る際に、まず口や舌の状態を見ます。麻痺の影響により顔面や舌 の動きに左右差があるかどうか、です。明確な差がなくても加齢などが原因で筋力が落ちてくる と喋りに影響が出てきます。
次に、ものの名前を言う、という形で言葉を想起できるかどうかを評価します。身の回りにあるも ので良いですが、できるだけ同じカテゴリーにならないようにことが望ましいです。「文房具」だ け、「動物」だけとならないようにいくつかのカテゴリーの絵か実物を用意します。
「話せる」かどうかと合わせて「聞いてわかる」、「読んでわかる」、「字を書ける」事も合わせて評 価します。
評価の結果、大きく分けて「話す」以外も影響がある場合は失語症と判断することが多いです。 反対に「話す」以外は影響がなく、顔面や舌に麻痺があり、話す言葉が聞き取りにくい時は構音 障害と判断します。しかし、脳梗塞などがある場合は両方合併することがあるため、それぞれに 対してアプローチしていく必要があります。
今回は構音障害を掘り下げていきます。 構音障害は口唇や舌の動きが制限されることで起こります。脳梗塞などからくる麻痺が原因にな ることが多いですが、突き詰めると筋力低下が根底にあるため、加齢などからくるフレイルやサ ルコペニアといった筋力低下を引き起こす状態も原因の一つとなり得ます。
構音障害はテレビでよく言われる「セリフを噛む」ことが常に起こる状態です。喋りがゆっくりにな るパターンが多いですが、早口になってしまうこともあります。
リハビリはシンプルに筋トレがメインです。
口唇、舌の筋力アップを目指しますが、逆に力を抜い ていくパターンの訓練もあります。麻痺と聞くと力が抜けるイメージですが、反対に力が入りすぎ てしまう状態も起こり得ます。力の入れ方をイメージして少しずつ抜いていきます。 口や舌は手や足と違って ”見ながら” 訓練を行うことが難しい身体部位です。そのため、鏡を使っ て行う事を勧めています。”見る”事で動きをイメージしている脳の判断と実際の動きをリンクする ことで、動きの改善を図っていきます。視覚的フィードバックとも言います。 この”見える”、”見えない” が非常に大きな影響を及ぼします。”見えない” 事でトレーニングの進 み方が遅くなると言っても過言ではありません。口や舌がしっかり動いているか、力加減でどのく らい差が出るかをしっかり見て行うことで動きの改善を図っていきます。
また、喋った言葉がどれくらい聞き取りやすいかは自己評価だけだと他者との誤差が大きくなる ことがあります。
自分ではちゃんと喋っている「つもり」でも、家族から「何を言っているのかわから ない」と言われてしまうケースは多いです。
また、口の動きだけでなく、声量、つまり呼吸能力も聞 き取りやすさに関わってきます。声が小さい、反対に声が大きすぎる等の影響を変えていくため にも、相手がいる状態で話すことは非常に重要となります。
構音障害の改善のためには ①口唇や舌を大きくしっかりと動かすこと ②喋っている言葉が相手にどう伝わっているかを確認しながら行うこと ③自主トレーニングの継続 が大切になります。 これは数回リハビリをやったからといって劇的に良くなるものではありません。身体機能を伸ばす ためには毎日の積み重ねが重要です。自主トレーニングとしての日々の予定への定着そして継 続が、機能回復への最も大切な要件となります。 もちろん個人で行うことには限界があります。通院して専門スタッフとのリハビリで現状を確認し つつ、目的を持って機能改善を目指していきましょう。