2026.07.01
話すということ
今日から7月です。1年も半分を過ぎました。
さて今月の投稿は話すこと、を失語症を掘り下げる観点から見ていきたいと思います。
失語症は一度獲得した言語機能が、脳の損傷を伴う病変などにより損なわれた状態を指します。
この場合の脳損傷は言語を司る部分の損傷であって、以前お伝えした麻痺による口や舌が動かしにくくて話せないいわゆる構音障害とは異なります。
言語に関わる部分は前頭葉、側頭葉、頭頂葉など非常に広範囲の部分に及びます。失語症のタイプ分類も古典分類と呼ばれる分け方では8つに分けられます。
そのどれにも共通するのが「話す」、「書く」といった表出がうまくいかないケースです。
症状の回復に伴い、「聴く」や「読む」といった理解面が先に回復していく事が多く、リハビリを進めていても相手に伝えることはできるが相手の意思表示を汲み取ることが難しいといった状態で退院を迎える方も多く見てきました。ジェスチャーや筆談、絵や文字の指差しなどの代償手段も提示しましたが、やはり言葉を伝えられないことは非常なストレスであろうことは想像に難くありません。
そんな「話す」、「書く」といった表出能力のうち、「話す」事を、一体どのように脳が処理しているのかを今回お伝えしたいと思います。
先にも述べた口の麻痺で起こる構音障害は「話す」のゴールにあたる部分です。
今回はそれ以前の、「話す」ときに頭の中でどのような動きがあるかについてお伝えしたいと思います。
まず話そうと思ったときに頭の中で話したいことに該当する内容(意味情報)を考えます。
例えば「ラーメンが食べたい」としましょう。
このとき、考える言葉は「ラーメン」「が」「食べ」「たい」に分けられます。
「ラーメン」という言葉を頭の中で思ったときには実は「ラーメン」に音声はついていません。文字もついていません。まだイメージの段階です。※1
でも、これから「ラーメン」と話すという意識は確立している状態です。
そこに音声を一つずつ結びつけていきます。音声で「ra」「a」「me」「n」と1音ずつ合わせていきます。※2
ここで想像した音を口や舌に命令として送ります。※3
命令通りに口を動かして発話します。※4
この※4がうまく動かせない状態が構音障害となります。
※1〜※3が主に失語症の症状と考えられています。
※1の部分にダメージがあった場合の症状は、病気にかかわらず経験された方が多いと思います。テレビで見た懐かしいタレントさんの名前がぱっと出てこない、会話の途中で「ほら、あの、暑いときに手であおぐやつ」のように使い方が言えても肝心の名前が出てこない症状です。これを『喚語困難』といいます。「わかっているんだけど言えない」これが話すことを難しくする大きな原因となります。
※2では話したいことがイメージできてそれを音と結びつける際に誤ってしまう、というエラーが出ることがあります。
例えば先程の「暑いときに手であおぐやつ」では、「うちわ」と答えるはずが誤って似た意味の「扇風機」が出てきたり、「うきわ」と音を間違えたりしてしまうことがあります。これを『錯語』といいます。また、この部分のダメージが深刻だともっと音自体がごちゃごちゃしてしまって意味をなさない、聞いている側からすると言葉になっていない『ジャーゴン(ジャルゴン)』などの反応もみられます。これらのエラーに関しては※1※2両方の影響も考えられます。
※3では麻痺がないのにうまく話せない症状だけが出てくることがあります。これは『発語失行(アナルトリー)』といわれており、他の症状と合併することもあれば、単独で出てくることもあります。言葉のイメージはできているのに口が違う動きをしてしまうのです。文字を書くとスムーズに書くことができたり、食事のときに動きの制限がなかったりしますが、しゃべる時など特異的に症状が出てくるため発語失行などと呼ばれています。
※1、※2、※3、※4はそれぞれ単独で出てくることもあれば合併してでてくることもあります。
どの症状に対しても、リハビリの方法は繰り返して刺激を入れることが基本になります。話しづらくても、誰ともコミュニケーションを取らないことは逆効果になることがあります。思い通りにいかないことはストレスにもなりますが、できる範囲で、少しずつ家族、友人との交流を続けていきましょう。
