2025.01.30
嚥下とむせりについて
脳血管疾患のみならず、様々な理由で食事に影響が出てしまい、リハビリを希望される方は少なからずいらっしゃいます。そういった症状にお困りの方もそうですが、関わりを持つご家族様や介護のスタッフの方々にも見て頂けると幸いです。
リハビリとして関わる食べられなくなる症状は『嚥下障害』もしくは『摂食機能障害』と言った名前で呼ばれることが多いです。(また、『摂食障害』とすると拒食症や過食症などこころの病気の分野になります。今回は取り上げていません。)
入院中のリハビリでは脳血管疾患による麻痺が主な原因で口から食べる事に何かしらの影響が出た方々に関わることが多いですが、生活期のリハビリでは脳血管疾患以外の原因による摂食機能障害に関わることが増えてきます。
多いのは加齢による筋力低下です。活動量の低下や食事量の減少で痩せてしまい、筋力低下から摂食機能障害に繋がることがあります。
摂食機能障害の相談を受ける際、「ムセる」という言葉で表現されることが多く、「ムセるから困っています」、とご相談いただくことが非常に多いです。
さて、ここでひとつ問題です。「ムセる」とはどういうことでしょうか???
「ムセる」というのは食物、水分、唾液や痰などの異物が気管に入ることで起こります。これらの異物が男性の喉仏に該当する甲状軟骨内にある声帯(声門)を越えると異物を知覚してなんとか声帯より上に戻そうとします。その際に咳き込むことがいわゆる「ムセる」と言う反応になります。
身体の仕組みとして、気管には簡単には入りにくい構造になっていますが、それでも入り込んでしまう大きな原因はやはり筋力低下や麻痺による嚥下運動の不十分さにあります。嚥下をしても喉に欠片が残ってしまい、それが気管に吸い込まれてムセるというものです。対策として最も効果的なのは嚥下体操などの運動による筋トレを続けていただくことになります。
もうひとつ、異物を感じにくくなる感覚低下も挙げられます。特に体温と近くなる唾液や痰などの分泌物に気づきにくくなり嚥下が遅れることでムセに繋がってしまいます。感覚低下が原因なので氷なめのような感覚刺激の入力と合わせて、嚥下体操などの筋トレで嚥下運動を強化していただくことも重要です。
ここまでがリハビリを通じて対策ができることなのですが、それ以外にもムセる原因があります。
相談を受けていて多いと感じたのが、入れ歯が合わない、虫歯が痛いなどの歯の問題で、非常に見逃されやすいです。なかなか家族でも相手の口を覗いたり状態を気にしたりすることは少ないと思います。入れ歯が合わずカタカタした状態で食事をすることで、噛む回数が減って丸飲みしようとしたり、歯の隙間に食べ残しが溜まったりすることでムセに繋がります。こちらに関しては歯医者さんでしっかり調整しましょう。
また意外なところでは食事環境があげられます。テレビを見ながら食べる、をやめて食事に集中できる環境をつくる事も対策になります。
身体が沈み込むようなソファーで食事をしていたり、体格に合わないテーブルと椅子で食べていたり、ベッドを起こして食べていても体が傾いていたりと、そういった食事の姿勢を直すことでムセがなくなることもあります。
見極めが難しいのですが、
「椅子の上に乗っている=座る」
ではありません。
介助動作をする中で椅子に乗せるまでで一仕事終わった、と考えてしまうのも、非常に労力を使うことなので無理もありません。しかし、座った状態でもお尻が前にずれていたり、体が左右に傾いていたりと体が傾くことでムセに繋がることがあります。
試しにお尻の片方を浮かせた状態で座り続けてください。違和感なく座れる方はいないと思います。身体が傾いているというのは、そういう状態で食事をすることと同じだと考えてください。
くつろぐには良いのですが、食事には適さない環境や姿勢で食べているケースは思ったよりも多く、こういったことに目を向けられるかどうかでいち早くムセの予防ができると考えています。
急に言われても正しい座り方なんてわからない!というのが当然だと思います。もっとシンプルで大丈夫です。
・身体が傾いていないか
・椅子に浅く腰かけていないか
・ソファーが柔らかくて上半身がのけぞっていないか
・テーブルが低くないか
・テーブルから離れていないか
食事の際にこういった箇所をチェックしていただくだけでムセを減らせたケースが少なからずありました。
身体の傾きや座り方は座り直しや、お尻を引くと言った介助動作で修正できます。
ソファーやテーブル台を使って高くしたり、食事する場所を変えたりすることで対応できるかと思います。
このように、一口に「ムセる」といっても原因は様々です。生活における大きな楽しみである食事。いつまでも楽しむためには細かなケアも必要です。リハビリクリニックがリハビリ以外の事をおすすめするのも変な話と感じるかもしれませんが、リハビリが必要になる前に防ぐ事も大切な事だと思いこの話をしました。いつまでも食事を楽しむために、できる対策は早めにしていきましょう!!!