2025.07.07
2040年問題
●はじめに
いつも大変お世話になっております。訪問リハビリ担当の理学療法士です。
今日は2月に実施した講演会で少しお伝えした、「2040年問題」について書いてみようと思います。「2040年問題」と聞くと、「そんな先の話はまだ関係ない」と思っていませんか?
でも実は、その問題はすでに始まっていて、わたしたちの暮らしにも少しずつ影響が出てきています。この記事では、これからの地域づくりや介護、リハビリのことを考える上で重要な「2040年問題」について、図を使いながら分かりやすくご紹介します。
もれなく全員が関わってくるお話なので、簡単に書いてみようと思います。約5分程度の内容となっています。
●2040年問題とは何か?
2040年問題とは、結論から言いますと「高齢者人口の爆発的増加と現役世代の減少による社会保障制度の危機」ということになります。もっと砕いていうと、「人手不足と財政の課題が深刻になる問題」です。怖い表現ですが、実は既に私たちは2025年問題というものを乗り越えるための社会づくりを実践しております。
まずは、2025年問題からふりかえってみましょう。2025年というのは、団塊世代(人口の多い世代)が全員75歳以上になる年です。そこで、2025年までに地域全体で高齢者を支えるための「地域包括ケアシステム」を作らなければならない!と提唱されたのが2005年です。「地域包括ケアシステム」とは、「高齢者のための医療・介護・予防・住まい・生活支援の一体提供」という社会づくりです。実に20年かけて社会づくりを行ってきたことになります。その先駆けとなったのは、「地域包括支援センター」の設置です。全ての市町村に設置されているので、ご存じの方も多いかと思います。
そうなると、2040年まではあと15年で短いではないか!となってしまいますが、実はもう中盤に差し掛かっています。2040年に向けた取り組みとして「地域共生社会の実現」という目標があります。これが提唱されたのは、2016年です。つまり、もう既に9年経過しているということになります。
u 地域共生社会とは:みんなが役割を持てる地域へ
「地域共生社会」とは、{「支える人」「支えられる人」といった線引きをせず、誰もが役割を持ち、助け合いながら暮らせる地域}です。「地域」なんです。この取り組みは、国が舵取りをして、各自治体が主役で進めるプロジェクトということです。「自分たちの未来は自分たちで作ってくださいよ。」というメッセージであり、自分たちの地域に欲しいサービスを作るということは、そこに新しい事業が生まれます。その事業は、これまで「支えられる人」だった人が担っていくことも考えられます。
高齢者、子育て世代、障がいのある方、若者…それぞれが支えたり、支えられたりしながら、一緒に地域を作っていきます
図①:地域共生社会の模式図
出典: 厚生労働省「地域共生社会の実現に向けて」
この図①は、地域共生社会の全体像を表しています。暮らし、働き方、人と人とのつながりすべてが循環し、「支え・支えられる関係」が地域に広がっていく仕組みです。
しかし、あまり大々的に伝えられて来ませんでした。それは、2025年問題へ向けた取り組みと繋がっているので、同時進行状態だったからではないかと考えています。地域包括ケアが「高齢者支援の土台」だとすると、地域共生社会は「地域全体を包み込む枠組み」と言えます。ということは、2025年を迎えた今年、2040年問題がより身近になってくると考えています。
しかし、その前に、2030年が一つの節目になると言われております。団塊ジュニア世代が60歳前後に差し掛かる時期です。現役世代の減少が加速していくわけですが、加えて団塊世代が全員80歳以上となり、介護サービスの量的なニーズは、この辺りが一次ピークになると予想されております。人手不足で迎えるピークです。私たち介護事業所が柔軟に地域のニーズを汲み取って対応ができればいいのですが、この対応を誤ると、その後の2040年問題への対応は非常に厳しくなる見解となっています。なので、2030年問題などと言われております。
図②:日本の人口ピラミッドの変化
出典: 総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
図②を見てみると、2040年には、65歳以上の高齢者が約35%を占め、人口の中で最も大きな世代になります。一方で、15〜64歳の働き手は年々減っていくことが分かります。
●2027年の介護報酬改定が分岐点になる
先ほど、2030年が一つの節目といいましたが、2030年に突然起こる問題ではありません。もう、既に実感しているところでは、「施設スタッフの人材不足」,「老々介護」,「特養・老健の入所待ちが慢性化」,「介護事業所の赤字・撤退(2024年に最多)」がイメージしやすいところかと思います。
2030年に生じる可能性がある問題に対して、何も準備しないハズがありません。少しずつ、医療・介護の報酬改定という形で制度改定が進められています。医療分野は2年ごと、介護分野は3年ごとに見直されております。
この報酬制度改定に対応するために、社会が少しずつ形を変えてきました。前回、2024年に医療・介護分野の同時改定がなされております。介護分野については、次の改定が2027年ということになります。2024年の改定において、多くの介護サービスが進むべき方向性がある程度メッセージとして示されていたように思います。
改定は制度の変更ではあるが、本質は「地域と現場の意識変容」にある
このように言われることが多々ありますが、まさにその通りです。小さい制度変更を受けて、舵を微調整していれば、大きく航路を逸れることはないと思います(よほどの改革でなければ)。もっと言えば、意識変容によって、次の改定に事前に備えることも出来ます。
さて、2027年の介護報酬改定ですが、これが2030年へ向けた「最終調整」であり、2040年へ向けた「本格始動」となる可能性が高いということで、注目されています。
ここでは、「自立支援」や「地域の支え合い」がこれまで以上に重視される方向になると予想しています。
- 家で暮らし続けるための支援(卒業支援)
- 通いの場(サロンなど)や地域活動など、介護に入る前の「予防」的な取組
- ICTやテクノロジーで負担を減らす工夫
※あくまでも私の予想です。
これらが出来ているところには何らかの報酬が与えられる、もしくは、出来ていないところに何らかの罰則が与えられる。という感じで社会の仕組みは変わっていくことになります。
●活動と参加がリハビリの「卒業支援」になる
リハビリの真の目的は、身体機能の回復だけではなく、
地域の中で自分らしく暮らし、誰かとつながりながら生きていく力を取り戻すことです。
地域のイベントや集いに参加すること、誰かにありがとうと言われること――
そうした経験こそが、モチベーションになり、“卒業”という次のステージへの原動力になります。
●まとめ:すべてはリハビリに頼らない生活のために
2040年問題とは、「未来のこと」ではなく「今ここ」の課題です。
介護・リハビリ・地域支援に関わるすべての人が、制度や報酬に左右されすぎることなく、支え合いと自立支援を地域の中で形にしていくことが、今、求められています。
すべては「リハビリに頼らない生活」の実現のために。
そのために、リハビリは「してもらう」から「自分でやる」へ。
そして地域での活動と参加が、自立した暮らしを後押ししてくれます。
未来の準備ではなく、「現在の変革」として、地域づくりを一歩進めていきませんか?
私たちは、「新しい未来」へ、地域社会とともに歩んでいきます。